冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
 プロポーズされた結菜はこのマンションから引っ越し、年明けには浩明さんのマンションで一緒に住む段取りをつけているところだった。そこに私が転がり込んできたのだ。お邪魔虫以外のなにものでもない。

「極力早く仕事と引っ越し先を見つけるから」

 今日もホテルに行く前に、不動産業者を回ってきた。

「そのことで小夜に話があるの」

 不意に結菜が真面目な面持ちで切り出したので、つられて居住まいを正した。

「なに?」

 改まってどうしたのか。ドキドキしながら結菜をうかがう。

「小夜、家政婦しない?」

「え?」

 身構えていたものの彼女の口からは予想外の言葉が飛び出した。

「家政婦?」

「そう。浩明さんの弟さんなんだけどね。ものすごく仕事が忙しくて、いわゆるワーカホリックらしく、家事が全然回っていないらしいの。それだけならまだしも、ろくに食事もとっていないみたいで浩明さんがすごく心配していて……。小夜の話をしたら、是非!って」

 話が読めてきたが、素直に首を縦に触れる案件ではない。

「む、無理だよ。家事は嫌いじゃないけれど全部自己流だし、そういうのはプロに任せた方が――」

「それがね、見知らぬ他人を部屋に入れたくないって、そういったサービスをことごとく断ってきたみたいなの」

 結菜の言葉に頬を引きつらせる。

「私も見知らぬ他人だけれど?」

「大丈夫。私と浩明さんが結婚したら、小夜と弟さんは親戚になるわけだし」

 そんなむちゃくちゃな……。

 親戚といっても遠すぎるだろう。結菜と浩明さんの結婚式は二月を予定していて、入籍は結婚式の日に合わせてすると聞いている。弟さんとはそこで顔を合わすくらいで、今後の付き合いがあるとも思えない。

 私の顔色を読んだのか、結菜が顔の前でパンっと手を合わせた。

「お願い。小夜なら信用できるって浩明さんも言ってるし、弟さんを心配していて、本当に困っているみたいだから、お試しだけでも」

 結菜の勢いと今の自分の状況を鑑みて、私はぎこちなく頷いた。
< 6 / 166 >

この作品をシェア

pagetop