冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
 家事が得意というわけじゃない。正確には家事をせざるをえなかったので、自然と腕が上がっただけだ。

 改めて浩明さんから依頼され、『無理だと思ったら辞めてくれてかまわないから』という後押しもあり、ひとまず五日間のお試しという形で、彼の弟である三神(みかみ)成明(なるあき)さんのマンションにやってきた。

 この依頼を引き受けたのは、従姉とその婚約者直々に頼まれたのはもちろん、提示された金額が破格だったという理由もある。求職中であり引っ越しもしなければならない身としては、無下にするには惜しく思うほどだった。

 仕事の内容は部屋の片付けと掃除、食事の支度といった家事がメインで、素人の私がもらうにはどう考えても分不相応のお給料なのだけれど、ここに三神さんに食事と睡眠をきちんととってもらうこと、という難易度が高い業務が加わっている。

 身内である浩明さんが手を焼いているのに私が務まるのかな。

「桑名様、奥のエレベーターからどうぞ」

「はい」

 コンシェルジュが出迎えるマンションなど初めてで、それだけで緊張感が増す。

 そういえば三神さんは、どんな仕事をしているのだろう? あえて聞かなかったし、浩明さんもなにも言っていなかった。普通の会社員が住むには、いささか敷居 が高そうなマンションだけれど……。

 あれこれ考えているうちにエレベーターは止まり、指定された部屋の前に足を運ぶ。チャイムを鳴らし、しばし待つものの誰も出てこない。

 ややあって再度チャイムを鳴らすが、誰かが出てくる気配はやはりない。

 留守? でも浩明さん経由で私が来ることは伝わっているはずだし……。シャワーを浴びているとか?

 様々な可能性を思い浮かべるが、やはり中から反応はない。

 もしかして、なにかあって中で倒れているとか――。

 さっと血の気が引き、再度チャイムを押す。
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