冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
『三神先生……ちょっとは元気になった?』

 ふと、さやかちゃんから投げかけられた言葉を思い出す。

 さらには医師として多忙を極める中、患者さんと向き合って精神的につらくなるときだってあるはずだ。

 少しでも彼の力になりたい。以前は仕事だと割り切っていたけれど、今は三神さん自身のために自分にできることをしたいと心から思える。

 土曜日の昼下がり、外は十度ほどで首元に巻いたマフラーを整え直す 。

 天気はいいけれど気温は上がらない。今年も残り一ヶ月となった。

 三神さんのマンションから一駅離れているが、手ごろな価格のアパートも仮予約したし、少しずつ前に進んでいる。

 今日は指示されていた資料の整理をしておこう。見慣れた三神さんのマンションのエントランスに近づいたときだった。

「桑名さん」

 名前を呼ばれ、ぱっと振り向く。声をかけてきた人物を視界に捉えた刹那、私は目を見開いたまま硬直した。しかし相手はにこやかに近づいてくる。

「久しぶり、元気だったかい?」

「森下課長……」

 どうして彼がここにいるのか。

「人事課に聞いたら、退職後の書類の郵送先が君の従姉のマンションになっていて 、近くまで行ったらちょうど出かける君を見かけたものだから」

 背中に寒気が走った。わざわざ人事課から結菜のマンションの住所を聞いて、会いに来たってこと? しかも、そこからずっとついてきていたの?

 まったく気づかなかった。その事実に足が震え出す。

 どうしてそこまでして私に執着するの? 奥さんだっているのに。
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