冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
「なんの……ご用でしょうか?」

 無視もできず、絞り出すような声でたずねる。森下課長は憐れみを含んだ笑みを浮かべた。

「困っているんじゃないかと思ってね、うちみたいないい会社をやめて……。私でよかったら力になろうかと」

「けっこうです!」

 すぐさま拒絶する。この人はなにを言っているのか。そもそも私が会社を辞めたのだって元々は森下課長が――。

『仕事とは関係のない個人的な事情を批判してくる人間の言葉を気にするだけ無駄だ。聞かなくていい』

 せっかく三神さんのおかげで振り払った暗い感情にまた飲み込まれそうになってどうするのか。話すだけ無駄だと悟り、立ち去ろうとする。その際、力強く腕を掴まれた。

「はっ、離してください」

 驚きと怖さで声が上擦る。

「遠慮しなくていい。君には頼るご実家も両親もいないんだ。素直に私に甘えてくれたらいい」

「必要ありません。帰ってください!」

 振りほどこうとしたが、思ったより力が強い。バクバクと心臓が音を立て、勝手に体が震えだす。嫌悪感と恐怖感でパニックを起こしそうだ。

「そう意地を張らず、素直に頼ってほしい。石坂さんから聞いているんだ。なんなら住む場所だって私が用意しても――」

「彼女になにか用が?」

 割って入った声は、低くてよく通る耳慣れたものだった。見ると、不機嫌そうな面持ちの三神さんがこちらに鋭い視線を向けて近づいてくる。ゆったりとしたミラノリブニットにスラックス姿で、時間的には仕事帰りのようだ。
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