冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
「うるさい」

 今度は間が空くことなくドアが開けられ、不機嫌そうな男性が顔を出す。低く通る声はなぜか聞き覚えがあった。

「あっ!」

 ここが共有スペースだというのを忘れ、思わず叫ぶ。そしてあまりの偶然に鼓動が加速した。間違いない。髪を下ろしているし、ダークグレーの襟シャツにスラックスとわりとラフな格好をしているが、彼は先日ホテルのラウンジで女性に散々な対応をしていた男性だ。

 信じられない思いのまま、私は頭を下げた。

「初めまして。浩明さんに紹介されてこちらに来ました。桑名小夜と言います」

 まさかあのときの男性が浩明さんの弟だったなんて……。こんなことってあるの?

 頭を上げ、ちらりと男性をうかがう。直接会話を交わしたわけではないし、向こうはおそらく私のことなど覚えていないだろう。

「初めまして、ではないな」

 しかしその予想はあっさりと打ち砕かれた。

 笑った、という表現は適切ではない。皮肉っぽく口角を上げた彼の表情に硬直する。

「先週の出来事を忘れるほど記憶力がないならしょうがないが」

 嫌味を吐かれ、カチンと来て言い返す間もなく彼は続ける。

「浩明から聞いている。とてつもなく押しつけがましく面倒で今すぐ願い下げしたいところだが、ひとまず中へ」

 嫌々といった雰囲気を微塵も隠すことなく、まったく歓迎されていない状態で招き入れられる。仕事ではなかったら、今すぐ背を向けてここを去りたいところだが、結菜や浩明さんの手前、そういうわけにもいかない。

「お邪魔します」

 小さく呟いて彼のあとに続く。明るくて広い玄関は、とても一人暮らしのものとは思えない。

 浩明さんから生活力皆無だと聞いていたがとくに乱雑な印象はないけれど……。
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