冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
「小夜」

 さらに名前を呼ばれ、鼓動が速くなる。ずっと名前どころか君呼びだったので、まだ慣れない。三神さんの切り替えの早さを少し分けてほしいくらいだ。

「はい」

 ゆっくりと立ち上がると、彼の手には小さなリングケースが収められていた。

「指輪が届いた」

 先日、三神さんの都合で有名ブランドのジュエリーショップに連れていかれたのを思い出す。

 基本はインターネットで買い物を済ます三神さんが、わざわざお店に連れ出したことに驚いた。指輪自体、必要ないと訴えたがあえなく却下される。三神さんの立場もあるし、結婚するのをアピールしたいなら用意しないわけにもいかないだろう。

『私、とくに希望なんてありませんし、指輪自体なくても……』

『自分が身に着けるものなんだ。自分で選べ。好きなものにしたらいい』

 ぶっきらぼうに彼は告げたが、突き放されたわけではないのは理解できた。三神さんは自分で選ぶことを大事にする人だ。きっと患者さんに対しても同じなのだろう。

 そう言われて私はじっくりショーケースを見つめた。

 まさか指輪を――婚約指輪を選ぶ日が来るなんて。ショーケースに並んだ指輪は照明を浴びて、どれもキラキラと輝いている。

 一つひとつ見つめていると、ある指輪が目に留まった。ぱっと見て花びらを連想させるデザインで、華美過ぎず上品さも兼ね備えている。

「これでよかったんだな?」

 確認するように声をかけられ我に返る。ケースの中で煌めくのは、あの日私が選んだ婚約指輪だ。値段を見ずに選んでしまい、支払いの段階で倒れそうになったのは内緒だ。

「……はい。ありがとうございます」

 分不相応とか、形だけの結婚なのに、とかマイナスな気持ちがまったくないわけではない。でも三神さんが私の意思を尊重して、用意してくれたものだ。今は素直に感謝の気持ちで受け取ろう。
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