冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
「これ、車の鍵」

 差し出された鍵をおずおずと受け取る。周りからの視線が痛くて、胸が苦しい。

 そのとき、不意に頭に温もりを感じた。すぐに手は離れ、彼はさっさと踵を返し行ってしまう。うしろ姿を見送りながら、成明さんの手のひらの感触が大きな余韻となって体中を駆け巡っていく。

『これくらいの接触で緊張されていたら困るんだが?』

 成明さんにとってはなんでもないことだ。結婚していると見られるため、周りに違和感を抱かせないための行動で、いちいち反応していたら気がもたない。

 好きだと自覚してしまった以上、彼との温度差は毒だ。

「新婚さん、いいわねぇ」

 振り向くと、うしろのテーブルで談話していた年配の女性がにこにこしながら呟いた。もうひとりの女性も頷く。

「三神先生があんなふうに笑うの初めて見たわ。私たちには優しくいい先生だけれど患者に見せる顔とはやっぱりまったく違うのね」

「目の保養だわ。三神先生ったら、帝皇大学の医学部長の娘さんとの縁談もお断りしたって聞いていたけれど想い人がいらっしゃったのねぇ」

 少女のようにははしゃぐ女性たちを前になんて返したらいいのかわからない。

「松井さん、よく知っているわね」

「だてにここに長くいないわよ」

 それと同時に、三神さんの妻である私のことはあっという間に院内で広められてしまうのではないかとドキドキした。

 なにも悪いことはしていないはずなのに、不安になる。
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