冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
 マンションに戻ってきたのは、日がどっぷりと暮れた頃だった。美容院でいつもよりやや高めのメニューを選び、トリートメントで髪はサラサラになった。

 自分へのプレゼントとして、欲しかったコスメを手に入れられたし、お目当てのカフェにも行けた。大満足の誕生日だ。

 お気に入りのケーキ屋さんで小さなホールケーキとシャンパンを買ってきたので、夕飯代わりにひとり誕生会を開く。

 先にシャワーを浴びて、寝るまでダラダラ過ごす計画だ。いちごの乗った生クリームのケーキは子どもの頃から誕生日の定番だった。さすがにロウソクは立てないけれど。

 生クリームの甘さを引き立てるやや辛口の白ワインはシュワシュワと炭酸が口の中で弾けて、ついごくごくと飲んでしまう。幸せを噛み締めながら、ふと広いリビングに寄る辺なさを覚えた。

 今までもひとりで誕生日を迎えたことは何度かある。けれど、こんな広い家でひとり過ごす誕生日は初めてだ。

 静寂が嫌になり、テレビをつけたもののとくに見たい番組もない。スマホを触ってみるが、今はなににも興味がわかない。

 成明さん、何時に帰ってくるかな?

 時計を見ると、午後八時過ぎ。遅くなると言ったから、むしろ今から会食が始まった頃かもしれない。

『小夜が生まれたのは夜の九時前でね。明け方から陣痛があったのになかなかお産が進まないから本当に生まれてくるの?って思わず先生に聞いちゃったのよ』

 誕生日のたびに、私が生まれたときのエピソードを母はおかしそうに話してくれた。
< 98 / 166 >

この作品をシェア

pagetop