ポリスラインを翔びこえて
私の太ももをまたいで向かい合わせに座る犬井くんは、かわいさの欠片もない男の顔になっていた。
「……犬井くん、どいて」
「ぼくがどいたら蒼羽刑事は逃げるの?」
「犬井くんの態度によるわ」
「あは、そういう気の強いとこ大好物」
「……犬井くん、もう一度言う。どいて」
「やだ、って言ったら?」
「殴る」
「蒼羽刑事になら殴られたぁい」
「本気?」
「あは、割と気持ちよさそう」
やっぱ犬井くんはそっち系だ、確信。
本当に殴ったらたとえ同意の下でも暴行罪に問われることくらいわかってる。
はあ、と小さくため息をつく。
「……ねえ犬井くん」
これってさ。
この状況ってさ。
犬井くんの気持ち、確かめてもいいのかな。
「うん?」
同じ目線に大きなタレ目。
ゆるいカーブを描く柔らかそうな赤毛。
色素のあまり入っていないヘーゼルブラウンが、
赤みを帯びたブラウンが、
どうしても犬井くんじゃないきみと重ねてしまう。
「……私のこと好きなの?」
なのに犬井くんは純粋で透き通った言葉を。