ポリスラインを翔びこえて
Episode Ⅵ


【SIDE▶アオバセイ】



しんと静まり返る廊下にドンッと一突きドアを殴る音が響く。

ヒリヒリ痛む舌からじわりと鉄の味がする。


「くそっ……」


やってしまった。
そういうつもりじゃなかったのに。
ずっと抑えてきた感情だったのに。

僕がまだ8歳のとき、クリスマスの日にやってきた小さな存在。

初めは可愛い養妹として接していたのに、だんだん「家族」という括りではおさまらない気持ちが芽生えていた。

いつの間にか。ほんとうにいつの間にか、そうなっていた。

恋に落ちる瞬間ってもっと実感できるものだと思っていたのに、実際はそうじゃないこともあるんだと。

そこにはっきりとした境目はなくて、だからそんな自分が物凄く怖くて、そんな感情からは目を背けていた。

兄として相談にのり、兄として頭を撫で、兄として慰める。
兄としてコートを嗅ぐし、兄としてスマホをチェックするし、兄として不純な男は遠ざける。

そんなの下手な口実に過ぎないなんて考えたくない。

押し殺して気づかないふりをして、「優しいお兄ちゃん」の仮面を貼り付けて、彼女が困ったときはいちばんに頼れる正義の味方でありたかった。


他人に弱いところを見せない強がりなまこちゃんが、唯一僕にだけは見せてくれる涙。

僕だけが知っているまこちゃん。
彼女にとって特別な存在であると実感できた。

それが愛おしかった。
守ってあげたかった。
心の拠り所でありたかった。

「優しいお兄ちゃん」として、ずっとずっとそばにいたかった。

ただそれだけ、だったのに。

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