ポリスラインを翔びこえて

あんな顔をされたら。
これまで向けられたことのない、あからさまな拒絶を。

どうして。こっちを向いて。全部みせて。何でも打ち明けて。僕を頼って。涙を見せて。

からだが言うことを聞かず、気づいたときにはもう。


「馬鹿だな、ほんと」


血の滲む口腔で転がした言葉を呑み込んで立ち上がったとき、廊下に人影が現れた。


「大丈夫か、凄い音がしたが」

「……父さん、」


スーツのジャケット片手に眉をひそめてリビングからこちらを覗き込む父。
帰宅したばかりのようだ。

転んだだけだから大丈夫、といいながらリビングを通ってキッチンから麦茶を取り出しコップに注いで父に差し出す。


「出張お疲れ様」

「おう、ありがとう」

「こんなタイミングで悪いんだけど、少し話がしたいんだ」

「……先にシャワーだけいいか」

「うん。書斎で待ってるよ」


そうして父はリビングを出てしばらくのちシャワーの音が聞こえた。


書斎に入ると高い本棚にぎっしり詰まった本や書類たち。

ふと中央やや右下の段に違和感を覚える。
背表紙が少しだけ奥にずれている。

几帳面な父がこんなしまい方、珍しいな。

……いや、父は数日出張だったから不在だった。


「……、」


そっとファイルを取り出してみる。
表紙には何も書かれていない。

中を確認すると、それは20年前の烏赫抗争についての新聞の切り抜きや手書きのメモ、ぶれた写真などが綴られていた。
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