ポリスラインを翔びこえて
「うん。千人斬りのヤクザって噂。ほらここに大きな傷痕があるでしょ?それ名誉の傷なんだって」
頬を横切る大きな傷痕を指差す。
はあ、と思わずため息がこぼれた。
馬鹿バカしいにもほどがある。
なんだよ千人斬りって。なんだよ名誉って。
そもそもヤクザでそんな傷負ってるなら、なんで私はここにいるの。一人娘の命くらい狙われていてもおかしくないだろうに。
「でも私は、おとうさんはヤクザじゃないってずっと信じてる。あんなに穏やかな顔で笑うんだもん、絶対違う。そんな優しい人が悪い世界の人間なんて話、絶対にありえないからっ」
徐々に口調が強くなってしまって、気持ちを沈めるためにぎゅっとこぶしを握る。
私の話だって根も葉もない感情論なのはわかってる。
でも彼は、そんな主観的な私の言葉をすくいあげる。
「じゃあ俺も信じてる」
「……、」
「おとうさんはわるい人じゃない」
「うん、ありがとう」
炎くんは優しい声で私を撫でる。
きっと他人にそうされることは慣れてないから。
くらりと甘いめまいがした。