ポリスラインを翔びこえて
寝そべる彼は両手をこちらに向けて広げている。
抱っこをせがむ幼稚園児みたいだ。
「起こして」
「起きてるじゃん」
「からだ起こして」
「自分で起きなさーい」
「……写真」
「はいどうぞ掴まってください」
「ふふ」
心底うれしそうな長い長い腕が私に巻き付いて一気に温かくなる。
介護されるにはまだ若すぎるよ、炎くん。
そっと上半身を起こしてあげる。
それで任務完了のはずなのに、動かないのはどうして。
「あのー、早く離してくれる?」
「やだ」
「遅刻するんだけど」
「やだ」
「甘えん坊の幼稚園生ですか」
「やだ」
「22歳児、イヤイヤ期到来」
「やだ」
あー。何を言ってもだめだこりゃ。
満足するまで抱きしめるつもりか。
「はぁ」
小さなため息は柔い赤髪を揺らした。
しばらくの沈黙。
ふとカーテンの隙間から見える窓の外。
真っ青でクリアな空が広がる中を二羽の翼が飛んでいった。
遮るものが何もないということは、ここは上層階なのかな。
カーテンを全開にしたらどんな景色が見えるんだろう。