意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい
そう言って及川さんの婚約者はテーブルに思いっきり両手を叩きつけた。

そして、その後すぐに私のトレイをはたいて床に落とした。

プラスティック製の皿ばかりだったので割れはしないものの、大きな音が響きわたって食堂の近くを歩いていた人たちもみな足を止めた。

恐怖で身体がこわばった。

すると私の脳は逃げ道を探り出した。

会社の人たちは私と及川さんの関係を知らないんだから、このまま何のことかと、とぼけてみようか。

そんなこと考え始めた時、今度はパラパラと写真がふってきた。

そこにはホテルに入っていく私と及川さんが写っていた。

他にもタクシーに乗り込む写真や手を繋いでいる写真や路上でキスしている写真などなど。

もう言い逃れはできないと観念するしかなかった。


「すみません。知りませんでした」


ぼそっと言う。


「は?」

「及川さんに恋人がいて、ましてや結婚間近だったなんて」

「そんな嘘、信じると思う?」

「信じられないかもしれませんが本当に知らなかったんです」


ここで泣いてはいけないと思った。

人というのは危機を感じると自分を守るために、こうも次から次へと色んなことを考えるものなのかと感心した。

冷静でいる自分が怖かった。


「ごめんなさい」


私は頭を下げた。


「謝って許されると思っているわけ?」


頭痛がしてきた。

彼女の甲高い声が頭に響いた。

いつの間にか音は消え、皆が私たちに注目しているのがよくわかった。

思わず大きく息を吐いた。

いつの間にか呼吸が浅くなっていたので息をたくさん吸い込みたかった。


「ため息つきたいのは、こっちなんだけど!」
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