声の王子様 ~意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい~
すぐに立ち上がった。

椅子がギギッと床をする音を響かせた。

この1年弱で「すみません」が私の口癖になっていた。

同期たちも箸を置いて会釈する。

同期たちに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「俺が入社した時は食堂でゆっくりランチなんて出来なかったぞ」

「飯塚ディレクターの仕事が早いから、おかげで私たち後輩たちは人間らしい生活が出来ています。ありがとうございます」


手で口を押えながら答えた。


「そうだろうな」


飯塚という男がこのように言われることを喜ぶということは、何度も間違えた対応から学んだことだった。


「飯塚さん、ちょっと良いですか?」


やってきた男性が背後から飯塚に声をかける。

どうやら今日はこれ以上、嫌味を聞かずに済みそうだ。

飯塚さんは声をかけてきた人物にむすっとした表情を向ける。


「あ、すみません。飯塚ディレクター」

「ああ、どうした?」


彼は最近、チーフADからディレクターに昇進したばかりだった。

飯塚さんがくるっと再び紗枝の方を向きトレイを突き出した。


「あ、私が戻しておきますので行ってください」


トレイを丁重に受け取った。

彼はあからさまなため息をついた。

また私は対応を間違えたようだった。
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