声の王子様 ~意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい~
「お前さ、こういうのは俺が動く前に気付いてやるんだよ」

「すみません」

「ADはな、先手先手をいかないと俺みたいにディレクターにはなれないぞ」

「勉強になります」


この言葉も口癖になっていた。飯塚専用だけども。

去り際に後ろからついていく飯塚に声をかけてきた人物が振り返ると私にだけ見えるように「ごめん」とポーズで示した。

首を振り笑みを浮かべてそれに応えた。

むしろ解放された感謝しかなかったので、謝る必要はなかった。


「ちょっと行ってくる」


同期たちに一言伝えて私はトレイを返却棚に置くとスープの中に沈めてあるティッシュと爪楊枝を掴みゴミ箱に捨てた。

最初に飯塚の食事の片づけをやった時はこれを見て顔が歪んだが今は平気になった。

わざわざ使用済みのティッシュを残っている汁物に沈める飯塚の癖が私には謎でしかなかったけれど、先輩ADの中には同じことをやる人が数名いたので“あるある”なのだと思うことにした。

近くにある水道で入念に手を洗い、コロナ後から置かれるようになったアルコールを2プッシュした。

ここに水道があるのはきっと自分と同じように手づかみで先輩たちのゴミを捨てないといけない新人がたくさんいるのだろうと思った。

自分だけではないということだけが私を慰めた。

再び同期たちの待っている席に戻り昼食を再開した。
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