意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい
そんな予感をかすめた時だった。


「この前、エレベーターで一緒になった子だよね?」


そう問われ、私は声が出せず、頷くだけしかできなかった。

美麗な笑みを浮かべると彼は私の手を取り起こした。

立ち上がった後も手が掴まれたままで呆然としてしまった。

近くに立つと背が高く驚いた。

肩幅の広い男が美しい顔をして目の前にいるという現実が信じられなかった。


(この人がもはや二次元)


持たれていた手を親指で軽く撫でられ思わずパッと離す。


「あ、ありがとうございます」


ずっと手を握られていたことに恥ずかしくなった。


「君はここのスタッフなの?」

「あ、私は3階で働いてて」

「そうなんだ」


そういうとその人は私の耳に口元を持っていき囁くような声で言った。


「じゃあ、何でここにいるの?」

「え?」


なんと説明していいかパニックになっているとクスっという笑い声が聞こえた。


「もしかして、俺のストーカーとか?」


小声で囁かれ、飛び跳ねるように彼から離れた。

ククッと笑うと彼は私を一瞥した後、すぐにスタジオの中に入っていった。


「よろしくお願いしまーす」


私のよく知っている声が耳に響いた。

取り残された私はその場に縫い付けられたように離れることは出来なかった。

自分の失態に血の気がひいていくのがわかった。



スタジオの分厚いドアが閉まる瞬間、ちらりと那原は振り返った。

絶望の表情を浮かべ、ただただ地面を見つめる女を見つけると、不敵な笑みを浮かべるのだった。
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