意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい
混乱

1章

私はライブラリー室の自分の席で、ひたすらファイルを整理していた。

指先だけが動いて、頭の中身が全然ついてきていなかった。


『もしかして、俺のストーカーとか?』


思い出すたびに、羞恥心が波のように押し寄せてくる。

私はデスクに額を押し付けた。


(なんで、あんなところに突っ立ってたのよ、私)


あの瞬間に戻れるなら、迷わず回れ右をして、エレベーターに飛び乗っていたのに。

いや、そもそも行くべきじゃなかった。


「紗枝ちゃん、まだ凹んでるの?」


顔を上げると、桃美さんが心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。


「凹んでるっていうか、時を戻したいです」

「大丈夫よ~」


桃美さんはくすっと笑うと、隣の椅子を引いて座った。


「ちゃんと会えたんでしょ?」

「会えましたよ。会えて、ストーカー扱いされましたよ」

「それは……」

「もう二度と、あの人の前に姿を現せません……」


私は机に突っ伏したまま、うめくように言った。


「大丈夫よ、向こうは冗談で言っただけよ」


顔だけ横に向けて、桃美さんを見上げた。


「思い出すたびに発狂しそうです」

「若いわねぇ」


桃美さんはそう言って、私の背中を軽くぽんぽんと叩いた。


「向こうも、わざわざ声かけてきたんでしょ。しかも笑いながら」

「それは……そうですけど」

「本当に嫌なら、無視して通り過ぎるでしょ、普通」


その言葉に、私は少しだけ頭を持ち上げた。


「それは桃美さんの希望的観測です」

「そうかもね」


桃美さんはあっさり認めると、立ち上がって、私の頭をくしゃっと撫でた。


「ほら、悩んでても仕事は終わらないわよ」

「はい……」


私は渋々、体を起こして山積みのファイルの1番上に手を伸ばした。

けれど手はまた止まった。

耳の奥に、あの低くてよく通る声が、まだこびりついている。


『もしかして、俺のストーカーとか?』


「うぅ……」


私は再び、机に突っ伏したのだった。
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