意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい
「お疲れ様。残業してく?」


次に桃美さんに声をかけられたのは18時をまわった時だった。


「はい。結構たまってて」

「あまり無理しないでね」

「はーい」


桃美さんが帰ったあとも、しばらくはライブラリー室を出入りするスタッフの気配が残っていた。

キーボードを叩く音、電話の呼び出し音、誰かの笑い声。

けれど時計の針が進むにつれて、その音は一つ、また一つと消えていった。


「お先です」

「お疲れ様でした」


そんなやり取りが何度か繰り返され、気づけばライブラリー室の外の照明は半分ほどしか点いていなかった。

19時をまわった頃、最後に残っていた部長が席を立った。


「鈴木さん、まだかかりそう?」

「あ、はい。でも、もう少しで終わります」

「わかりました。ではお先に」

「お疲れ様です」


部長の足音がドアの向こうへ消えていくと、急に、部屋が広く感じられる。

21時までには帰りたいなと思って時計を見る。

私がいるこの部屋は一部がガラス張りになっていて、報道フロアが遠くに見える。

そこは電気がついているが、他は消えていた。


「よしっ」


集中してやってしまおうと思ったその時、ドアをノックする音が聞こえた。

振り返ると、ドアに寄りかかるように、彼が立っていた。
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