意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい
彼の手が、また私の頬に伸びかけた、その時だった。


ブーッ、ブーッ


彼のポケットの中で、スマホが震える音がした。

彼は、伸ばしかけた手をゆったりとした動きでポケットに移した。

私はいつの間にか止めていた息を吐く。

ポケットからスマホを取り出すと耳に付ける。


「はい」


私から視線を外さないまま、彼は電話に出た。


「……はいはい。わかりました、すぐ行きます」


短いやり取りだけで、彼は電話を切った。


「呼び出し。マネージャーがうるさくて」

「そ、そうですか」


やっと解放される、という安堵と、彼の視線がまだこちらに向いているという事実に、心臓はまだ落ち着かなかった。

距離ができたことに身体から力が抜けそうになる。


「残念」


彼は、そう呟くと、乱れてもいない髪を軽くかき上げた。


「もう少し、キミと一緒に居たかったのに」


顔が、また熱くなった。

彼は、そんな私を見て、満足そうに笑うと、ドアの方へと歩き出した。

途中、一度だけ振り返る。


「またね」

「え……」


それだけ言うと彼は軽い足取りで部屋を出ていった。

彼が見えなくなり、私はようやく詰めていた息を大きく吐き出した。

膝から力が抜けていく。

その場に座り込みそうになるのを、なんとかデスクに手をついてこらえた。

心臓は、まだ痛いくらいに鳴り続けていた。
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