意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい
麗依は、そんな私の頭を、よしよしと撫でてくれた。

その優しい手つきを感じながら、ふと、あることが頭をよぎった。


『あなた……狂わされるよ』


大衆居酒屋で、占い師にそう言われた、あの日のこと。

金歯を光らせながら、ニヤリと笑っていた占い師の顔が、鮮明に蘇ってくる。


『この男に狂いなさい』


100円で聞ける、その場限りの、軽い占い。

そう思っていた。

けれど今、あんなにも近くで彼と対峙して、心臓がまだ痛いくらいに鳴っているこの状況を思うと、笑い飛ばせなくなっている自分がいた。


「……ねぇ、麗依」

「ん?」

「占い、覚えてる?」

「占い?」


麗依は、頭を撫でる手を止めて私を見た。


「ほら、居酒屋で。狂わされるって言われたやつ」

「ああ……」

「狂わされるって……誰かは次に会った時にすぐわかるって……」

「それって……」

「彼の事じゃないかな……」


言葉にした瞬間、背筋がぞわりとした。

あの占い師の言葉が、ただの偶然の一致だとは、もう思えなくなっていた。


「私、訴えられるのかな?」

「え?」

「だってさ、狂わされるって、そういうことじゃない? 人生、狂わされるって」

「待って待って」


麗依が眼球をぐるりと回した。


「あの時の話、聞いてた?」

「聞いてたよ」


私は青ざめる。


「それがあなたの幸せになるからって言ってたよ」

「……そうだっけ?」


再び麗依が目玉を回した。


「言ってた! その人が、その相手なら、あなたを幸せにしてくれるってことでしょ? それって恋愛解禁ってことじゃない?」

「……」

「何? その不満そうな顔」


私は身体を起き上がらせた。


「たかが占いだもんね、あたるわけないか」

「もう! なんで幸せ部分は信じないのよ!」


私は少し真剣な表情で正面を見た。


「……私はもう恋愛はしないから」

「紗枝……」


私は大きなため息をついた。


「また盲目になってた。私の悪い癖だ!」


気合を入れ直すように、自分の頬をパチンと叩く。


「リーガル様は二次元の人! 今度、会ったらきちんと謝罪して終わらせるわ!」


麗依に笑顔を向けると、困ったような表情で頷かれた。

そして頭を撫でられる。

本当に温かかった。
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