意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい
那原は、わずかに眉を寄せた。

「それは、難しいかな」

「でも、かなり人気のある情報番組なんです」

「なんで、声優の僕が情報番組に出るの? ナレーションなら、まだわかるけど」

「最近は、声優さんもテレビ出演が増えてきているので」

「それも、前任の方から引き継ぎがなかった?」

「いえ、それはありました」

「そこだけは、しっかり引き継いだんだね」

「……そうですね」

「事務所からの説得するよう言われた?」

「はい」


那原は、小さくため息をついた。


「僕、顔出しはしない主義だから」

「存じ上げております」


那原は鞄から財布を取り出した。


「とにかく、顔出しは無理だから。それじゃ、お先に」


那原は、テーブルに千円札を置いた。


「あの、どうして、そこまで顔出しを避けていらっしゃるんですか?こんなに人気のある声優さんなのに。ファンの方々も、お顔を見たいとおっしゃっていますし」

「まあ、そうだろうね」

「それに」

「ん?」


村田が、少しだけ身を乗り出した。


「那原さんって、正直、かなりの美形でいらっしゃいますし」

「知ってるよ」


那原は、そう言って口の端を上げた。

村田は、その笑みに少したじろいだ様子を見せた。


「でも顔は出したくないんだ」

「それは、どうしてですか……」

「さあ、どうしてだろうね」


那原は、はぐらかすように静かに笑った。

村田が不思議そうに首を傾げる。

那原は席を立つと軽く手を振った。


「じゃあ、また明日」

「あ、お送りします」

「いいよ、この後、少し用があるから」


那原は、そう言い残すと静かにカフェを出ていった。
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