意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい
初デート

1章

キーホルダーを鞄にしまい、私は桃美さんと一緒にライブラリー室へ戻った。

午後の仕事は、いつもより少しだけ気分よく進んだ。

新しいキーホルダーが、鞄の中で密かに存在を主張しているような気がして、時々、手を伸ばして確かめてしまう。

そんな自分に苦笑いしながら、ファイルの整理を続けていると、内線電話が鳴った。


「はい、ライブラリー室です。はい、はい……資料ですね。わかりました、すぐ持って行きます」


私は必要なデータをUSBに入れると急いで部屋を出た。

エレベーターに乗る時、少しだけ、あの人のことを思い出して身構えたけれど、誰も乗ってこなかった。


(よかった)


そう安堵しながら、25階に着き、小走りにスタジオへ向かう。

ディレクターにUSBを渡し、簡単なやり取りを終えると、私はほっと息をついた。


(このまま、何も起きずに帰れそう)


そう思いながら、エレベーターホールへ向かって歩き出した、その時だった。


「あれ、また会ったね」


背後から聞こえた声に、心臓が跳ねた。

振り返らなくても、誰かわかる。

わかりたくなかった。


「……」

「無視?」
< 64 / 83 >

この作品をシェア

pagetop