意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい
そんなことを考えながら、私は駐車場をとぼとぼと歩いていた。

その時、聞き覚えのある笑い声が、少し先から聞こえてきた。


「うそ、まだ会社にいるの、あの人」

「マジウケる。相変わらず暗いよね」


芽衣と蒼の声だった。

こちらに向かって、歩いてくる。

心臓が、一気に冷たくなった。


(見つかりたくない)


反射的に、近くに停まっていた車の陰に、身を屈めて隠れる。

けれど、声は、どんどん近づいてきていた。

このままだと、鉢合わせてしまう。

私は、息を殺しながら、頭の中が真っ白になっていくのを感じた。

いきなり腕を、ぐいっと引かれた。


「え、ちょ……」


声を上げる間もなく、身体が車の中へと引きずり込まれる。

視界が、真っ暗になった。

一瞬の浮遊感のあと、私は、柔らかいシートの上に、押し込まれるように座らされていた。

ドアが、静かに閉まる音がした。

パニックになりながら、恐る恐る顔を上げると、至近距離で彼と目が合った。


「静かに」


耳元で聞き覚えのある低い声が響いた。

窓の外を、芽衣と蒼が、何も気づかずに通り過ぎていく。

その足音と話し声が、少しずつ、遠ざかっていく。

車内には、私と彼の2人だけ。


「な、なんで、あなたが」


彼は、唇に人差し指を当てて、小さく笑った。

その声が完全に聞こえなくなるまで、私たちは、しばらく無言のまま、じっとしていた。
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