意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい
那原は、声を上げて笑った。


「な、なんですか、いきなり」


さっきまでの余裕たっぷりな微笑みとは違う笑い方だった。


「だって、キミわかりやすいくらいに表情に出てる」


このように笑うと一気に幼く見える。

一瞬、その顔に見とれてしまって、私はすぐに視線を逸らした。


「わ、私はもう帰ります」


ドアの取っ手に手をかけると大きな手が私の手にかぶさり押さえ込んできた。


「まだ、話終わってないんだけど」


至近距離で言われて、私は言葉に詰まった。


「え?」


那原さんは、そう言うと手に少しだけ力を込めた。

逃がすつもりはない、という意思が、はっきりと伝わってきた。


「キミがスタジオまで来てくれた理由、ちゃんと聞きたいんだけど」

「それは……」

「……」

「それは……」


言葉に詰まる。

嘘をつく才能が、決定的に足りていないことを、私は自分自身が一番よくわかっていた。


「あ、あなたが……」

「……」


那原さんの無言が怖い。

この人は、わかっている。


「あなたは声優さん、ですか?」


那原さんをまっすぐ見つめる。

返答はない。

まっすぐ余裕のある笑みを浮かべて私を見つめていた。

耐えられなくなったのは私の方だった。


「……もう、いいですか」

「いや」


私は盛大なため息をついた。

那原さんから視線を反らした。


「私は『愛している…君を』のファンなんです。それで、あなたがリーガル様の声に似ていたから、うちの局でアニメ化もするって言っていたし、もしかして…と確かめたかったんです。本当に申し訳ございませんでした」

「なんで謝った?」


私は驚いて那原さんを見る。


「だってストーカーって……怒ってるんじゃないんですか?」

「怒ってないよ」

「じゃあ、なんで」


私に構うんですかという言葉を飲み込んだ。


「今日はこれくらいにしとく」


あっさりと手を離されて、拍子抜けした。


「今日は?」

「また今度、ちゃんと聞くから」

「聞かなくていいです」

「聞くよ。じゃあね、紗枝」


名前を呼び捨てにされて、心臓が跳ねた。
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