意地悪なボイスアクターの危険な執着愛から逃れたい

3章

電車に揺られながら、私は窓に映る自分の顔をぼんやりと眺めていた。

外は既に真っ暗で、ガラスは鏡のように車内を映し出している。


(なんで、私……こんな顔してるの)


指先が、無意識に唇に触れた。

そこに残っている感触はまだ確かなものが残っている気がした。

柔らかくて、それでいて有無を言わせない強さがあった、あの感触。


(思い出さない、思い出さない)


そう自分に言い聞かせるほど、頭の中で何度も、あの瞬間が繰り返された。

顎に触れた指先。

「黙って」という低い声。

そして、唇が重なった、あの一瞬。

窓の中の自分が、また唇に触れているのに気がついて、慌てて手を下ろした。


(何やってるの、私)


近くの座席ではサラリーマンが器用に居眠りをしている。

向かいの座席には、スマホに夢中な学生が2人。

誰も、私のことなど見ていない。

それなのに、まるで車内の全員に、今の自分の心の内が見透かされているような気がして、居た堪れなかった。

窓に映る自分と、目が合う。

間抜けな女がそこにいた。


(なんで、私、怒らなかったのだろう。知らない人にキスされたのに……)


自分で自分がわからなかった。


(リーガル様だから?)


その事実を、頭の中で改めて言葉にしてみると、現実感のなさに、めまいがしそうだった。

何度も画面越しに恋をしてきた声。

その声の持ち主に、直接、キスをされた。


(ファンとして、光栄なことなのかな)


そう思おうとしたけれど、うまくいかなかった。

これは、そんな綺麗な言葉で片付けられるものじゃない。

もっと生々しくて、もっと逃げ場のない感情だった。


(それに、リーガル様と彼は言っていない……否定もしなかったけど)

「ああ! もう! なんなの、あの人!」
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