幻の眷属
数百年が過ぎた。
今だに幻の眷属には会えていない。
俺は、今も社の守りをしている。
夏になると、肝試しをする輩が増えて忙しくなる。
来た人間を全て攫い、村に連れ帰り、男は殺して、女は、薬入りの酒で、孕める身体になるまで第一の屋敷に閉じ込める。
孕める身体になると、若い鬼から交尾をしていく。
そして俺達は女の所に通い孕ませる。
ここの村の鬼は何故か男しか生まれない。
なので、女を攫って繁栄させる。
そして女の腹の中でも子種で戦いが行われて勝った者が子孫を残せる。
女はこの村では貴重だから、血が繋がっていても交尾をして子孫を残す。
そのくらい女は貴重なのだ。
だから、幻の眷属が現れても、他の奴らと共有しなければいけない。
ただ一つの例外を除いて…。
それは、この村の最強の鬼になる事。
酒呑童子になり、この村の長になれば、特別だ。
長の女は他の男と共有しなくて良い。
すなわち、独り占めできるのだ。
だから俺は、不本意ではあるが、酒呑童子となる為、力比べに参加して、勝ち続けている。
それが今回で、9回目。
あと1回で、俺は長の権利を得る。
やっとここまで来たのだ。
あとは、幻の眷属と出会うのみ。
でもまだその幻の眷属とは出会えていない…。
たまに、本当に出会えるんだろうかと不安になる。
でも…。
出会えるような気がしている。
そして10回目の力比べの日が来た。
俺と青鬼は順調に勝ち進んでいる。
森の中で色んな鬼と戦う。
そして、毎回最後まで残る大きな黒鬼。
「いつも2人がかりで卑怯な奴らめ。2人じゃないと勝てないんだろ?」
「それは間違いです。私だけでも勝てますよ。」
「ふんっ。どうだかっ!」
黒鬼は青鬼を狙う。
青鬼は攻撃を避けている。
ん?
これ誘われている?
「青!誘われている!」
「そうですね…っ!ただ、今の私とコイツが互角で…っ!」
一瞬、気を許してしまった。
後ろから参加していない複数の鬼が俺を羽交締めにして、何かを首元に刺された。
「っ!」
「ははっ。これで酒呑童子の権利を阻止出来る!」
「卑怯な…っ。ぐっ…っ。」
「殺せばそんな卑怯も何もわからねぇんだよ!」
グッと青の首を絞める緑鬼。
これは少しヤバな…。
俺は身体に纏わりついている鬼も振り解き、首を絞められている青に駆け寄る。
「間に合わせねぇ!首の骨を折ってやる!」
力の籠った腕に危機感が溢れると、次の瞬間、青の姿が鬼の姿になり、2本の手で黒鬼の首を捻じ曲げた。
黒鬼がバサリと地面に落ちた。
「殺したのか?」
「いいえ。気を失っているだけです。」
青の腕は4本ある。
「さぁ…。今年も力比べといきましょう。私が勝ったら、私の従者ですからね。」
「ははっ。面白い!お前じゃまだ俺には勝てない…っ!」
あの1回目の力比べと比べるとみるみる青は力を付けて、今では、俺にも対抗できるくらい強くなっている。
俺達は、殴り合い、技を出し合い、戦った。
一瞬の隙。
俺が右にずれた所をつられた。
判断を間違えた青の腹に思いっきりの拳を打ちつけた。
「ぐわっ…っ!」
よろけた所を顔に拳を入れると青は倒れた。
「う…動けません…っ。負けました。」
「ははっ。俺に騙されたな。」
「貴方はいつも騙すような事はしないのに…。やられました。」
館に帰ると、鬼達が集まっていた。
「この赤は10回連続力比べと酒比べに勝った!酒呑童子の名を授ける。俺を負かすまで、かかって来い!まぁ、すぐには負けないがなっ!はははははっ。」
「ちょっと待ってくれ!酒呑童子様!」
「ん?」
「この赤は、酒と力は強いが、女はめっぽうだ。そんな奴が長になる事は皆、納得いかねぇ。」
「確かに…。俺たちは酒池肉林が大前提。その辺はどうなんだ?赤よ。」
「俺は、幻の眷属を手に入れる。だから、他の女はいらない…。」
「ほぅ…。幻の眷属とは…。また無茶な事を…。」
「ぷっ。あははははっ。幻の眷属なんているわけ無いだろう!ホラ話信じて女作らねぇとかバカだろ!あはははっ。そんな奴が次の長なんてまっぴらごめんだ!酒呑童子様!皆、同じ思いだ。こいつは外してくれ!」
「うーん…。よし!こうしよう!もし、俺が引退するまでに眷属を見つけられなければ、お前は外す。お前は女以外は良いからな。皆、それで良いか?」
「それなら良いです。」
それから数百年経ったが、酒呑童子には勝てず、眷属も見つからないままだった。
「くそっ!あのおっさん強過ぎる。」
身体中、痛い…。
「このひよっ子が!」
新しいおもちゃを手に入れて喜んている子供のような顔を思い出しただけでも腹が立つ。
そろそろ忙しくなる時期だ。
人間界が暑くなる。
人間共が、肝試しとかいう遊びを夏によくやる為、社に来るバカも増える。
「あーめんどくせぇ。」
「代わりに私が行きましょうか?」
「いや、いい。会えるかもしれないから…。」
そして人間が社に来た合図の鈴が鳴った。
社に出向くと、人間がいる。
「1、2、3、4、5。5匹か。全て男。」
容赦なく人間の息を止めて殺した後、村に持ち帰った。
「大量ですね。」
「あぁ。やはり下界が暑いとよく来る。女が来たら良いんだけどな…。」
「そうですね。肝試しとなるものは男が多いのでしょうか?」
「んー。みたいだな。あんな壊れかけの社に来て何が楽しいのか全くわからん。」
そして次々来る輩を女は攫い白の部屋に連れて行き、薬と酒で男が抱けるような身体にして、村に放つ。
今回は大量だ。
そして、また社の鈴がなったので、先ずは人の姿で人間の前に出た。
男2人、女2人。
何か雰囲気が違う…。
あぁ。あの男の1人は鬼だ…。
赤子の時に下界の人間界に捨てられて、人間に拾われたか…。
「こんばんは。すみません。道に迷ってしまっ…っ!」
4人からとても良いる香りがする…っ。
今まで嗅いだ事の無い、心臓を貫かれる様な…。
何だ?
心臓が痛い。
バクバクと心臓の音が耳の横で鳴っている。
体温が上がり、もの凄く惹かれる。
もしかして…。
これが?
でも…何かが違う。
男からも女からも香る。
コイツらから香るが、混じっている。
俺は鬼の姿に変わった。
「き、ぎゃっー!!!」
「お、おい!ヤバい!逃げろっ!!!」
女の1人を捕まえ、匂いを嗅ぐ。
やはりそうだ。
この良い匂いは、この女のじゃない。
女を攫う用の籠に入れる。
もう1人。
やはりだ…。
匂いが混じっている。
男も捕まえて匂う。
この鬼の男が1番匂う。
もう1人も匂う。
「おい。お前ら…。もう1人いるだろう?そいつはどこにいる?」
「知らねぇ!化け物!」
「はぁ?人間ごときが、抵抗するのか?」
俺が目の前の地面を殴ると、土が大きく盛り上がった。
「こんな事で仲間を売れるかよ!」
「そうか…。」
俺は男の1人の首を掴んで少し力を入れた。
「言わないなら殺す。」
「っ…っ、かっ…っ!や…っめろっ!」
「っ!小春の事でしょ!?」
「こはる?」
力を抜いて男を離す。
「げほっ。げほっ。」
「友達なの。ここには怖くて来れなくて…っ。近くのファミレスで待ってる!」
「なるほど…その女が…。」
俺は4人を睨んで威嚇した。
「おい。よーく聞け!その女を俺が呼んだら連れて来い。」
「小春に何をする気だ!」
「俺の眷属にする。心配するな。大事に丁重に扱う。もし…連れて来なかったら…お前らは全員殺す。」
「っ!」
俺は4人に繋がりを作った。
そして人間を離した。
俺は村に急いで戻った。
青が不思議そうに俺に声をかけてきた。
「どうされましたか?」
「いた…。いたんだ!」
「え?」
「幻の眷属が!」
「本当に!?」
「多分…。確かめる。白の部屋…。俺専用のやつを作る。あと、確かめの愛の花を採って来る。婚姻の儀を執り行えるようにして、盃を交わす。」
「え?そんな急に…っ?」
「あぁ。多分、そうだ…。おじいが言ってた。一瞬でわかると。まだ会ってないけど、多分…。用意するぞ。」
急いで準備をした。
あの人間には毎日、俺の声が聞こえるようにしたし、夢を見せた。