『ちゃんと愛してたのに』
3 ◇押し問答


「お前、仕事は?」

「あなたこそ、仕事は?」


「終わったよ。だからゆっくりしようかなと思って」

『で、家に帰らずにホテルかよ』

「どこでゆっくりしてんのよ」


「そんなの俺の自由だろ」

「自由じゃないでしょ」

「やめろよ、マジで」

「自由じゃないでしょって言ってるの」

「てか、何でここにいるわけ?」

「あなたこそ、
 あなたこそ、何でここにいるの?」

またまた私たちの意味がないこともない、押し問答が始まる。

「この人、私にエレベーター乗る時から付いてきてるの」
女が参戦する。

夫:「一緒に乗って来たの?」

女:「普通に乗って来たの。私のこと知ってたんですよね?」
 長谷川が私に向かって、夫と私に訊いてくる。

夫:「どういうこと?」

女:「だって、面識がないのに──」

『どうやって知ったんですか?』という女の心の声が聞こえてきそうだった。

私:「あなたとはね」

女:「でも私だってこと知ってたんですよね。
   ストーカーですか、怖いんですけど」


夫:「なんでここにいるの?」


 言質を取りたくて、うんざりするけれど同じ質問を繰り返す。

「状況を教えてよ。このカメラに向かって言って」

「なんでだよ。カメラ切れよ」

「なんでよ、カメラに向かって話せって言ってんのになんでカメラ切らなきゃ
なんだよ」

「何のカメラなんですか」
女が訊いてくる。


「証拠に決まってるでしょ。あなたたちが居る証拠。何でいるの?」

 
女:「何もしてないし」

夫:「普通にシャワー浴びててゆっくりしてただけだよ」

「シャワー浴びてゆっくりしている場所がここっておかしいだろ。
家でシャワー浴びてゆっくりしろよ」

「別に1人の時間ぐらいくれよ」

「1人じゃないじゃない。1人じゃなくない?」
『女と待ち合わせてふたりだろ。何が1人の時間なんだよ』

「別に話をするだけとかってあるでしょ」
 不倫女がふざけた寝言を白々しくのたまう。


「結局話す気ないんだね?」

夫:「うん、話さないね」

「不倫している謝罪もないっていうこと?」

夫:「何もしてないのに何で謝罪?」

女:「そうよ。わたしたち話をしてただけなのにね」


< 3 / 7 >

この作品をシェア

pagetop