触れられなくても、君がいい。 ――青い二人の、遠距離ロマンス。

『――まもなく、一番線に電車が参ります』

 門限までに家に着くための、タイムリミットの電車。
 その到着を告げる無機質なアナウンスが、待合室に響き渡った。

「……ホームまで、送る」

 航はそっと立ち上がり、私の手を握ったまま階段を上り始める。

 もう、バイバイだ。

 どうにか最後は、笑顔の航と言葉を交わして別れたい。
 そう願う一方で、かつて『遠距離恋愛なんてしんどい』とこぼしていた彼が思い出され、不安に襲われる。

 私は、距離があっても恋人でいられるだけで十分に幸せだけれど。
 航は――。

 非情にも、時刻表通りに上り電車がホームへ滑り込んできた。

 プシューッ、と重いブレーキ音が鳴り響いた瞬間。
 私は彼のほうへ向き直り、朝、会えたときと同じように勢いよく抱きついた。

 航は少し驚いたように肩を揺らしたけれど、すぐに私よりもずっと強い力で、背中をきつく抱きしめ返してくれた。

 彼の匂いや温もりを、自分の中にたっぷりチャージするように。
 胸元に顔を埋め、大きく息を吸い込んだ。

「毎日、連絡するね」

 私が、そう言うと。

「……ん」

 航は、短いけれどうんと甘い声で、耳元で応えてくれた。
 それがたまらなく切なくて、胸が張り裂けそうになる。

 背後で扉の開く音がして、ゆっくりと身体を離した。
 鉛のように重くなった足を引きずって、東京へと向かう明るい車内へ足を踏み入れる。
 二人の名残惜しさなんて露知らず、いつもと変わらぬスピードで閉まる扉。

 彼が見る『最新の私』が、不安げな顔にならないように――。
 なんとか口元をキュッと上げ、窓越しに小さく手を振った。

 それを見た航は、少しだけ顔つきを和らげて、そっと手を振り返してくれた。

 ガタン、と重い音を立てて、電車が走り出す。

 ホームに残る彼の姿がどんどん小さくなり、やがて夕闇に紛れて見えなくなっても。
 私はずっと、その方向から目を離すことができなかった。
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