触れられなくても、君がいい。 ――青い二人の、遠距離ロマンス。
 ◇

 二時間かけて、自宅の最寄り駅に到着した。

 そこにあるのは、見慣れた、いつもと何も変わらない日常の風景。
 ついさっきまで航の隣にいた時間が、まるで幻だったかのように思えて、胸の奥がすうっと寂しくなる。

 家まではまだバスが動いている時間だったけれど、塾帰りの凪沙を乗せた母の車が、ロータリーまで迎えに来てくれていた。

「おかえり〜」

「ただいま」

 ドアを開けて後部座席に乗り込むと、そこには窓の外を睨みつけ、思い切り不貞腐れている凪沙の姿があった。

 私がカチリとシートベルトの金具を差し込むや否や、車が静かに走り出す。
 すると彼女は、わざとらしいほど大きな溜息を吐き、ぼやいた。

「塾、やめたい」

 運転席の母が、バックミラー越しにちらりと視線を向ける。

「ここまで頑張ってきたんだし。今踏ん張れば、将来絶対に楽になるから」

 いつものように、なだめるような口調。

「……だからそれは、お母さんたちの話でしょ? 価値観を押し付けないでよ! 私には、今やりたいことがあるの!」

 凪沙はここ数か月、ずっとこんな調子だ。
 夏休みに中学受験に向けた夏期講習がみっちり入ってしまい、まったく遊べなくなったことをきっかけに、同い年の彼氏に振られてしまったらしい。
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