触れられなくても、君がいい。
 ◇

 女将さんが「ごゆっくり」と去って間もなく、長旅の疲れからか、妹と弟は畳の上で寝てしまった。
 母はそれを見守り、運転を担っていた父も座椅子に寄りかかり微睡んでいる。

 暇を持て余した私は、散歩に出ることにした。

 誰もいない廊下を歩き、地下への階段を降りると、突き当たりの壁に『ビーチへの出口はこちら』という札が掛けられていた。

 矢印が指すほうへ向かう。

 カラフルなサンダルが並べられた下駄箱と、靴を履き替えるためのすのこが敷かれたスペースが、そこにはあった。


 そして、外へと繋がる重厚な扉の前に――先ほどの彼、宿の息子さんがいた。


 竹箒で、コンクリートの床に散らばった白い砂を掃いている。
 私の気配に気づくと、顔を上げた。

「……ビーチに、出るんですか」

 声変わりの途中なのか、少し掠れた声。

「あっ……ハイ」

 返事を聞いた彼は、箒を壁に立てかけ、金属の扉をぐっと押し開けてくれた。

 その瞬間、全身を包み込むような波音が、狭い空間に反響する。
 眩しい日差しとともに、熱い潮風がどっと吹き込んできた。

 扉を押さえてくれている彼のもとに歩み寄り、外を覗く。
 緑の隙間を縫うように続く、細い階段があった。

「階段降りたら……左ですか?」

 小さく確認すると、彼は「案内しますよ」と言って扉から手を離し、前を歩き始めてくれた。
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