触れられなくても、君がいい。
「階段急なんで、気をつけてください」
両脇には、ヤシの木のような大きな葉が、頭にぶつかりそうなくらい伸びている。
彼に倣ってくぐり抜けながら、広い背中についていく。
一段降りるごとに、波音が近づいてくる。
草木がアーチ状に覆い被さる緑のトンネルをくぐり抜け、右へ出た瞬間。
視界いっぱいに、目に沁みるほど鮮やかな青と白のコントラストが広がった。
「うわあ……っ!」
つい、子どもみたいな声を出してしまった。
「海、好きなんですか」
感動して動きを止めていると、尋ねられた。
「あっ……普通、です」
正直に答えると、彼は少し可笑しそうに笑った。
言い訳のように「えっと。泳ぐの、苦手なので……」と付け足す。
「浮かぶだけでも気持ちいいですよ」
返ってきたのは、優しい声。
ふと、先ほどの女将さんの言葉を思い出す。
「あの……同い年らしいので、敬語じゃなくても」
思い切って伝えると、彼は「え」と小さく目を見開いた。
「年上かと思った」
時折そう言われることがあるが、見た目が大人っぽいというわけではない。
手のかかる妹や弟の前で、我儘が言いづらい環境で育つうちに、自分の気持ちをあまり口にしなくなっただけ。
いわゆる『長女の処世術』みたいなものだ。