触れられなくても、君がいい。
歩みを進める彼に、なんとなくついていく。
深い砂浜に足を取られる私をよそに、彼は器用に歩いている。
「……そっちこそ、年上かと思った!」
波音に負けないよう、少し声を張った。
「え、俺?」
意外そうに振り返る。
「学校の男子は、いつも猿みたいに騒いでるけど……そんな感じ、しないから」
私の言葉に、彼は「猿?」と吹き出した。
「まあ、俺も宿の手伝いしてるとき以外は猿みたいに遊んでるけど」
「……たとえば?」
「サッカーしてるか、海に潜ってるかのどっちか」
「ふうん……」
夏休みだからか、平日でもビーチは賑わっていた。
左右を緑豊かな山で囲まれた、弓なりに続く波の穏やかなこの海は、子ども連れの家族が多いようだった。
「ここから、島見えるよ」
彼がそう言って立ち止まった場所からは、たしかに水平線の向こうに浮かぶ小さな影が見えた。
「行ったことある?」
「あるよ。飯、美味い」
どこか得意げに教えてくれた。
まだ日差しは暑いけれど、夕方に近づきつつある時間帯。
一定のリズムで繰り返される波の音と、吹き抜ける夏の風が心地いい。
「名前、なんていうの」
ふと、静かに尋ねられた。