触れられなくても、君がいい。 ――青くて甘い二人の遠距離ロマンス。
「ロビーで話すくらいにしておきなさい」
「…………」
大人の目には危うく映るのかもしれないけれど、決して『そういう目的』だけで、二人きりになりたいわけじゃない。
まだ、自分でお金を稼ぎ、会いに行く手段を持つことはできない私たち。
一緒にいられる時間は得難く、切実なのだ。
お互いの前だけでしか吐き出せない不安や、寂しさがあって。
限られた時間で、私は航のそれを、出来るだけ取り除きたい。
もちろん、親の厚意による家族旅行中であることはわかっているけれど――。
「夏帆、聞いてる?」
「……うん。わかってる」
不満げな響きを隠しきれないまま短く答え、部屋を出た。
パタン、と閉めた扉の音が、雨の匂いがする廊下に冷たく落ちた。