触れられなくても、君がいい。 ――青くて甘い二人の遠距離ロマンス。
 ◇

 ロビーに向かい、航に連絡しようとスマートフォンを取り出したとき。
 ブラウンの革張りのソファに深く沈み込み、電話をしていた凪沙が私に気づいた。

 相手はおそらく、彼氏だろう。
 凪沙は「ちょっと待ってて」と断りを入れると、こちらに声を投げてきた。

「夏帆ちゃん、どっか行くの?」

「ロビーで、航と話そうかなって……」

「昨日みたいに、部屋行けばいいじゃん」

「……お母さんに『部屋はダメ』って言われた」

 不満げな私に、凪沙は目を丸くして「はあ?」と呆れてみせた。

「まさか、それで引き下がったの?」

「…………」

「お母さんが来たらうまく誤魔化してあげるから、行ってきたら」

「『誤魔化す』って……どうやって」

 凪沙は「わかんないけど」と、事もなげに返してきた。

 言葉は適当なのに、なぜかその瞳は頼もしく見えてしまう。
 賢く立ち回る策士な一面を、これまで幾度となく見てきたせいだろうか。

「……いいの?」

「うん。でもその代わり、私が今後彼氏と何かあるときは、夏帆ちゃんがアリバイづくり手伝って?」

 そう言って、にっこりと微笑んだ。
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