触れられなくても、君がいい。 ――青くて甘い二人の遠距離ロマンス。
「…………」
姉に手を差し伸べるだけでなく、ちゃっかりと『貸し』を作っておく抜け目のなさ。
けれど、その打算的な条件があるおかげで、母の言いつけを破ってでも航のもとへ行こうと思えた。
「ていうか、次からもうちょっと食い下がってよね? 夏帆ちゃんが聞き分けよすぎると、我が家のハードルが上がって迷惑」
「…………」
さらりとそんなことを言い捨てると、凪沙は再びソファに深くもたれかかり、恋人との時間に戻っていった。
傘を持っていなかったけれど、雨に煙る外へと飛び出した。
午前中の熱を帯び始めたアスファルトを、夏の雨が容赦なく打ち据えている。
濃い緑から漂う青葉の匂いが、湿気とともに辺りに立ち込めていた。
スマートフォンを持つ腕に、大きな雨粒がぶつかって弾ける。
風の音に負けないよう、声を張りながら電話をかけた。
「……もしもし、航っ? あのさ……」