触れられなくても、君がいい。
 ◇

 父と、妹の凪沙(なぎさ)とともに、ビーチで航と待ち合わせた。

 黒のサーフパンツを履いて現れた航から、つい目を逸らしてしまった。
 一方の私は、去年まで使っていたブルーのストライプの水着姿。子どもっぽくないだろうかと気になった。

 航が連れて行ってくれたスポットは、岩場の近くにある堤防の周辺だった。
 海を囲む山から、蝉たちがこれでもかというくらいの音量で大合唱している。

 その蝉時雨に負けないよう声を張りながら、航は「俺のお古でごめん」とシュノーケルマスクを貸してくれた。

 彼は浮き輪も持たずに、堤防から一、二メートル下にある真っ青な海へ飛び込んだ。
 難なく浮かんだり、潜ったりしている。

 私たち家族は、堤防の端からテトラポッドにゆっくりと移り、そこから片足ずつ、そっと海中へ滑り込ませた。
 身体がすべて海水に浸かる。茹だるような外の暑さとは違って、水温はまだひやりとしている。


 父は凪沙についていたので、航はずっと私のそばにいてくれた。

「魚、いるの?」

「いるよ、いっぱい」

 魚を見て楽しめるなんて、沖縄のような南国に行かないと難しいと思っていた。
 水中に顔を潜らせた航が、見つけた群れを指差して教えてくれる。

 恐る恐る、冷たい水に顔をつけてみた。
 すると――。

 視界に広がる世界に、息を呑んだ。
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