触れられなくても、君がいい。 ――青くて甘い二人の遠距離ロマンス。
 ◇

 駐輪場に自転車をとめ、蛍光灯に照らされた構内に足を踏み入れようとした、その時だった。

 こんな時間に、いるはずのない人影。
 暗がりから現れたその姿に、目を丸くした。

「……え。何してんの」

 そこに立っていたのは、ダッフルコートに身を包んだ、葉月だった。
 普段とは異なり、化粧の気配がない素顔はどこか幼く見える。

 白い息を吐きながら、彼女は口を開く。

「……おはよう」

「え? あ、おはよ」

「…………」

 そして、俯いた。

 発車時刻までは少し余裕があったけれど。
 頭の中は、これから向かう東京のこと、夏帆のことでいっぱいだった。

「……? それじゃあ」

 横を通り過ぎようとしたら、小さな手で腕を掴まれた。

「……っ、行かないで!」
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