触れられなくても、君がいい。

 休憩するため二人で堤防に上がり、マスクを外して並んで座った。

 濡れたシーグラスを、太陽にかざしてみた。
 エメラルドグリーンの光が、透き通って乱反射するのに見惚れていた。

 寄せては返す静かな波の音が、心地よく流れる。
 眩しい光の中で、少しだけ低くなった彼の声が響いた。


「誕生日……おめでとう」


 驚いて、隣を見る。
 彼は私の方ではなく、穏やかに揺れる海面へ視線を向けていた。

 胸の奥が、陽に照らされる肌よりずっと、あたたかくなる。

「……ありがとうっ」

 嬉しさを隠しきれず、弾んだ声で返した。
 航は照れくさそうに目を逸らしたまま、短い髪についた海水を払っていた。
< 21 / 33 >

この作品をシェア

pagetop