触れられなくても、君がいい。
 ◇

 そんなふうに、心の中に分厚い防波堤を築いていた私に対し。
 航はいとも簡単に、眩いほどの不意打ちを仕掛けてきた。

 宿の駐車場で、車を降りた瞬間だった。

 ご両親の隣に立ち、私たちの到着を待ってくれていた航は――こちらを一目見るなり、目尻をクシャッと下げた。

「……っ」

 時間をかけて準備した盾が、一瞬で壊れそうになる。
 頬が緩むのを感じながら、小さく手を振った。

 宿のご主人である航のお父さんは、トランクから荷物を運び出す私の父に手を貸してくれている。

「涼しいところ入りたーい」と早速玄関へ向かう凪沙と、車内で寝てしまった湊人(みなと)を抱えてその後を追う母。

 家族の賑やかな喧騒から取り残された私と航は、ゆっくりと歩み寄った。

 お気に入りのレモンイエローのワンピース。
 その裾が、海風に煽られてひらりと揺れる。

「……久しぶり」

「うん……」

 すぐ近くで耳に届いたその響きは、すっかり声変わりを終えていて。
 もう、大人の男の人のようだった。
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