触れられなくても、君がいい。
すぐ脇に迫る山からは、蝉の声がけたたましく降り注いでいる。
「夏帆の学校は、どうなの」
「え?」
「男女で、仲いいの?」
不意の質問に、私はすぐに首を横に振った。
「ううん、全然喋らないよ。ましてや夏休みに遊ぶなんて、ありえないね」
「へえ……」
航は足元のアスファルトを見つめたまま、短く相槌を打った。
道路の角を曲がった、そのとき。
太陽に照らされた真っ青な海が、視界いっぱいに広がった。
「わあ……綺麗……」
思わず足を止め、見惚れる。
蝉の声が少しだけ遠のき、代わりに優しく規則的な波の音が鼓膜を揺らした。
「ここの海って……本当に綺麗だね」
感動を伝えたくて、振り返る。
彼は、海ではなく――黙ったまま私の顔を見つめていた。
「……航?」
名前を呼ぶと、彼は「……なんでもない」と、再び前を向いて歩き出した。
光に照らされた、細いけれど広い肩。
甘い潮風の匂い。
その光景は、意図せずとも脳裏に焼き付くのを感じた。