触れられなくても、君がいい。 ――青い二人の、遠距離ロマンス。

 初めて見る、サッカー部のユニフォーム姿。
 肩には大きなエナメルバッグを下げたままで、部活を終えてからまっすぐ来てくれたことがわかった。


「誕生日……おめでとう!」


 波音に負けないよう、声を張って祝ってくれる。
 胸の奥がギュッとなって、つい、浮かれそうになる。

 けれど――そんな気持ちは懸命に押し殺した。


「……ありがとうっ」

 短くお礼すると、すぐに海へと視線を戻した。

「部活終わった! 潜る練習、する?」

 手紙で『誕生日祝いに、潜り方を教えるよ』と言ってくれていたのだ。

「それ……やっぱり、いいや!」

 目を合わせないまま、その申し出を突き返した。
 航は「えっ」と戸惑ったような声を漏らすも、続ける。

「去年みたいに溺れたら、危ないし……」

「お父さんいるから、大丈夫っ」

 当の父は、少し離れた海面から不思議そうに私たちを見比べている。

「約束、してたし……」

 食い下がる航の優しさが、今は苦しかった。
 昨日、葉月ちゃんと密着していた彼の姿がチラつき――必死に振り払う。


「だからっ……大丈夫だって!」


 思わず、棘のある声を投げてしまった。
 ハッとして航を見ると、彼はそんな私に目を丸くしている。

「……わかった」

 彼は静かに立ち上がり、堤防の上を歩いて宿へ戻っていった。
 その背中を、ただ見送った。
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