触れられなくても、君がいい。 ――青い二人の、遠距離ロマンス。
「夏帆、どうしたの。せっかく会えたのに」
母と同じく、私の恋心をなんとなく把握している父が、呆れたように尋ねてくる。
「…………」
明日にはもう、東京へ帰らなければならない。
『片思いを楽しむ』と割り切るのであれば、嫌なことなんて忘れて一緒に遊んだほうが、いい思い出になるのに。
「夏帆があんなふうにムキになるの、珍しいね」
父の言う通りだった。
長女として空気を読んで生きてきた私は、家族とも、仲のいい友達とも喧嘩などしたことがない。
誰かに思いのまま言葉をぶつけてしまうのは、初めてのことだった。
恋は、誰かを――私を、ここまで面倒くさい子にしてしまうのだ。
「女の子は、素直なほうが可愛いよ」
この複雑な気持ちなんて知る由もない父の無神経な言葉に、「……うるさいなあ」と小さく悪態をつく。
そして冷たい水の中で、行き場のない想いが混ざった息を吐き出した。