触れられなくても、君がいい。 ――青い二人の、遠距離ロマンス。
私がこの街を気に入っていることは、航にも伝えてはいる。
けれど、親の口から改めて本人の前で言われると、ひどく気恥ずかしくなる。
「嬉しいですねえ。航も、随分と楽しみに待ってましたよ」
その言葉に、航は特に必要もなさそうな、誰もいない隣のテーブルを無言で拭きに行ってしまった。
それを見た航のお父さんは、「照れてら」と眉を下げて笑っていた。
家族から見てもわかるくらい、楽しみにしてくれていたんだ。
不覚にも、嬉しさが込み上げてしまう。
けれど、そんな和やかな空気の中で、ふと、母がこぼす。
「来年は夏帆が受験生だから、来られるかわからないし。だから、今年来られて本当によかったです」
その言葉が、胸の奥に冷たい風を吹かせた。
高校生になったら、優しい航もさすがに文通には付き合いきれず、途絶えてしまうだろうか。
この海に来られなくなったら、私たちは『ただの昔の知り合い』として、疎遠になってしまうだろうか。
コーラのグラスの底から絶え間なく湧き上がり、弾けては消えていく無数の泡を見つめていた。
航にも、母の声は聞こえていたはずだ。
けれど、こちらに背を向けたままだったから、どんな顔をしているのかは、わからなかった。