触れられなくても、君がいい。 ――青い二人の、遠距離ロマンス。
 ◇

 宿へ戻って残りの仕事を終え、自分の部屋に入る。

 脳内で悠也の『女々しい奴』という台詞が再生されたものの。
 俺は再び、あの錆びた缶ケースに手を伸ばしてしまった。

 手紙の束と一緒に、手帳を破った一枚の紙切れが入っている。
 そこに書かれているのは、夏帆の電話番号。

 中二の夏にここへ来てくれたとき、帰り際の朝、彼女がくれたものだ。

 塾に通っていて、ないと不便だからと、買ってもらったばかりだというスマートフォンの連絡先。
 俺はまだ自分の連絡手段を持っていなかったけれど、チェックアウトの手続きを待つロビーで、『一応伝えておくね』と慌てて書いてくれた。

 手帳に向かって屈み込む夏帆の、さらりと顔にかかる髪。
 それをそっと指ですくい、耳にかけてやった。


『……昨日から、触りすぎじゃない?』

『私、振られたんだよね?』


 彼女は上目遣いで俺を睨みつけながらも、ひどく恥ずかしそうに頬を染めていた。
 それが、たまらなく可愛かった。

 けれど中学生の俺は、『気持ちが整理できたら伝える』などと言って、また答えを先延ばしにしてしまったのだ。
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