恋を知らないきみへ
───ちょっと待って。本当に、彼って。

マーケティング部のフロアまで行ってやろうかとも思ったけれど、そんなことをすれば変に悪目立ちしてしまう。


なんとも言えないモヤモヤを抱えたまま、私は木ノ下くんへの苛立ちを消すようにパソコンの電源も落とした。

急いでパソコンを閉じてタブレットと一緒に書類もバッグに詰め込む。


勢いよく立ち上がった私に、隣の席の後輩の後藤くんが声をかけてきた。

「小関さん、今日は外ですか?」

「……うん、展示場」

「暑そうっすねー!あ、これよかったらどうぞ」

彼に差し出されたのは、塩ラムネと書かれた飴だった。
……優しい。


「ありがとう」と受け取って、自分に“ほらね”と言い聞かせる。

普通は、普通ならば、人ってこうなんだ。
親切で、そして優しくて、そして柔らかい。

……はずなのに。


『俺、たぶんきみのこと、嫌いだと思う』


嫌われているから、こんなに冷たいのか。


この先のことを考えると死ぬほど気が重くなったけれど、木ノ下くんに気持ちを乱されるのも癪な気がして。

バッグを肩にかけ直して「展示場に行ってきます」と営業部のみんなに笑顔で声をかけて出かけた。


営業は、笑うのも仕事だ。




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