恋を知らないきみへ
働いていれば色々なことはある。

理不尽なこと、納得いかないこと、許せないこと、想定外のこと。
それでも飲み込んで、前を向くしかないということも知っている。

「……木ノ下くんに、“なんで担当希望が来るの?”って言われた」


今日、一番引っかかった言葉を口にした。

桃果が少し驚いたように目を丸くして、「え?」と聞き返す。

「ほのかにそんなこと言ってきたの?」

「うん。でもさ、そんなの私だって知らないよ。こっちは精一杯仕事してるだけなんだし。理由なんてないじゃん」

「……ふふっ」

隣から吹き出すのが聞こえて、思わず桃果を見つめてしまった。

「いや、そこ本気で分かってないの、ほのかだけだと思う」

「え?どういうこと?」

「色々天然なんだよねぇ、ほのかって。私はそういうところが好きなんだけどさ」

「……私も桃果のこと好きだよ」


そう言った途端、桃果から熱い抱擁を受けた。

「木ノ下はほのかの良さが分かんないんだなぁ。可哀想なやつめ」

「……いいよ、あの人とはこの先ずっと分かり合えないだろうし」

「とことん戦っちゃえば?」

「いや、できるだけしゃべりたくない」


そう答えたのに、頭の中では今日のやり取りが何度も反芻される。


『やっぱり分かんない』
『小関さんが、選ばれる理由』


そんなの、私だって知らない。

知らないけれど。
あんなふうに真正面から“分からない”と言われたことなんて、今まで一度もなかった。


桃果にもたれたまま、ぬるくなりかけたカフェオレをひとくち飲む。

……明日、会社に行きたくない。



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