恋を知らないきみへ
「お疲れ様です」

一応声をかけると、数秒遅れて低い声が返ってきた。

「……お疲れ様です」

遅いし、低いし、やっぱり全然歓迎されていない。
もはやここまで来ると気持ちがいい。


私は向かいの席に座ってパソコンを開く。

バッグからメモとタブレットを取り出してテーブルへ並べていると、木ノ下くんが先に口を開いた。


「先に、今まで集まった内容まとめてるから見て」

そう言って、私の方へノートパソコンの画面を少しだけ向けてくる。

画面には、ここ一週間で集めた情報が木ノ下くんらしく整然と並んでいた。


若年層ファミリーが家に求めるもの。
家を建てようと思ったきっかけ。
SNS利用傾向、重視する設備、予算。
そして、共働き率や、子どもの人数と予定。

項目ごとにきっちり整理されていて、分かりやすい。

……分かりやすいんだけど。


私は少し眉をひそめて画面を見つめた。

「これ、“家を建てようと思ったきっかけ”の欄だけど」

「うん」

「“子どもの成長に合わせた住環境の見直し”ってまとめちゃうの?」

木ノ下くんは、なにが問題なのか分からないと言わんばかりにこちらを見た。

「だめ?」

「だめっていうか……、これ、元は“下の階に気を遣わずに子どもを遊ばせたい”って言ってた人の声でしょ?」

「そうだけど、要するに住環境の見直しだよね」

「いや、要しないでよ」

思わず即答してしまった。

木ノ下くんは一瞬だけ目を瞬かせたものの、特に気にした様子もなく言葉を続ける。


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