恋を知らないきみへ
『アパートだと子どもがジャンプするたびにヒヤヒヤする』

『在宅ワーク中、夫婦どっちかが会議してるともう片方が気を遣う』

『友達の家に遊びに行った子どもが、帰り道ずっと“うちにもお庭ほしい”って言っていた』

『広い家がほしいというより、帰った時にほっとしたい』

『共働きだから、洗濯物を片付ける場所が遠いだけで地味にストレス』


私はそのメモを見ながら彼に言い聞かせるみたいに確認する。

「これって、全部“子育て世帯”とか“共働き”で一括りにできる話じゃないでしょ?」

「……」

「お客様って、そんなに綺麗に分類できないよ」


そこまで言ったところで、木ノ下くんがふっと目を細めた。

嫌な予感がした。
たぶんこの顔は、なにか言う前の顔だ。


「───でも、それをそのまま積み上げていったら、ただの感想文にならない?」

「……は?」

「だって、今のって全部個人のエピソードでしょ。もちろん面白いとは思うけど、それだけ集めてもブランドの軸にはしにくい」

「……木ノ下くん」

「なに」

「ほんっとにむかつく」

気づいた時には、かなり低い声でそう言っていた。

人に面と向かって“むかつく”なんて言ったのは、たぶん人生で初めてだ。
こんなふうに感情をそのままぶつけるなんて、どうかしている。

でも、木ノ下くんと話していると、いちいち自分の感情をうまくコントロールできない。


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