恋を知らないきみへ
彼は腕を組んだままこちらを見ている。
でも、今さら止まれない。

「数字ばっかり見ないでよ」

「見てるのは数字だけじゃない」

「見てるよ。すっごい見てる。びっくりするくらい見てる」

「……なにその言い方」

「だってそうじゃん。お客様の顔を直接見ないから、そういうことばっかり言うんだよ」


その瞬間、木ノ下くんの表情がわずかに変わった。不機嫌そうに、目が細くなる。

でも私は構わずに言葉を重ねた。


「家を買う人がどういう顔で、どういうふうに悩んで、どんな気持ちで家の話してるか、木ノ下くんは知らないでしょ?」

「……営業みたいなこと言うね」

「営業だよ」

「感情移入しすぎなんじゃない?」

「してないよ。ちゃんと見てるだけ」

「同じだよ」

「違うって言ってるでしょ!」

また少し声が大きくなった。


ほんとに最悪だ。この人と話してると、どうしてこうなるんだろう。

ぐっと唇を引き結んでから、私はひとつ息を吐く。
それから、もう半分勢いのまま言った。

「そんなに分かんないなら、一回ちゃんと見に来ればいいじゃん」

「……は?」

「展示場でも、お客様の家でも。実際に住んでる人の話、木ノ下くんも一緒に聞きに行こうよ」


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